SUS303とSUS304の違い|削ると別物になる

公開 2026/9/23 ・ 小次郎 ・ 材料・工具 ・ およそ5分で読めます

材料重量計算で、自分の数字でそのまま計算できます(登録は要りません)。

図面の材質欄が SUS303 と SUS304。数字が一文字しか違いませんし、並べて置いても見分けはつきません。比重も同じです。

それでも、削ると別物です。

成分の違いは、硫黄だけではありません

ステンレス協会が公開している JIS の成分表から、二つを並べます。

CPSNiCr
SUS3030.15以下0.20以下0.15以上8.00〜10.0017.00〜19.00
SUS3040.08以下0.045以下0.030以下8.00〜10.5018.00〜20.00

目を引くのは硫黄(S)です。 304 が「0.030以下」なのに対し、303 は「0.15以上」。上限と下限で向きが逆になっています。 減らす対象ではなく、入れる対象として規定されているということです。

硫黄を入れると切りくずが分断されやすくなります。削るために成分をいじった鋼で、これが快削ステンレスと呼ばれる理由です。

ただし、違うのは硫黄だけではありません。

りん(P)   0.045以下  →  0.20以下     桁が違う
炭素(C)   0.08以下   →  0.15以下
クロム(Cr)  18.00以上  →  17.00以上    下限が1%低い

クロムの下限が下がっているのは、あとで出てくる話につながります。

切りくずの出方が、はっきり違います

ここが一番分かりやすいところだと思います。

SUS303   短く切れやすい。パラパラと落ちる。丸まった形になりやすく、比較的絡みにくい
SUS304   長くつながりやすい。帯状にニョロッと伸びる。絡みやすい

304 の切りくずは、工具やワークに巻きつきます。 自動運転で長く回す仕事や、切りくずを人が取りにいけない構造の機械では、ここが直接ものを言います。

303 が自動盤や量産の旋盤加工で選ばれやすいのは、この差が効くからです。

工具の持ちは、明らかに違います

同じ条件で削って、303 は「まだ刃が元気」なのに、304 は「もう刃先が鈍ってきた」と感じる場面が出てきます。

304 の側に、重なっている要因があります。

加工硬化する            削った表面が硬くなり、次の刃がそこに当たる
切削熱が逃げにくい      熱が刃先に溜まる
工具への溶着が起きやすい 刃先に材料が付き、それが剥がれるときに刃も持っていく
切削抵抗が上がりやすい

どれか一つではなく、まとめて効いてくるという感覚に近いです。

なお、何倍違うという数字はここでは出しません。 被削性の指数は資料によって値が割れますし、工具の材種・コーティング・条件・機械の剛性で変わります。「明らかに違う」というところまでが、確かに言える範囲だと思います。

→ 条件をどう決めるかは カタログの切削条件をそのまま使えない理由

仕上がりは、刃先が落ちてからの差が大きい

SUS303   普通に削っていれば、面が出やすい
SUS304   工具が切れているうちはいい。刃先が悪くなると、急に面が悪くなる

304 は、悪くなり方が急です。 少しずつ荒れていって気づく、という出方をしないことがあります。

同じプログラム、同じ条件で回していて、ある本数から面が変わる。 原因を条件や機械に探しにいくと遠回りになるので、まず刃先を見るほうが早いことが多いです。

面粗度そのものの考え方は、別の記事に分けています。

→ 面粗度は送りの2乗で効く

⚠ 歪みは、材料記号だけでは決まりません

ここは注意が要るところです。

303 と 304 を比べると、304 のほうが薄物で苦労を感じやすいというのは確かにあります。粘る、切削抵抗が大きい、加工硬化する。削る側の負担が大きいぶん、薄いものや細長いものでは影響が出やすくなります。

ただし、「303 は歪みにくい」とは言えません。

素材の圧延状態     内部に残っている応力は、材料記号では分からない
形状              薄物・細長い・片側だけ削る
削り方            取り代の残し方、荒と仕上げの分け方、削る順番

この三つの影響が、材質の差よりも大きく出ることがあります。 材質を 303 に変えたから歪まなくなる、という話ではないということです。

歪みで困っている場合、材料記号を見る前に、素材の状態と削り方を疑うほうが当たりやすいと思います。

それでも 303 を選べない場面があります

削りやすさだけで決まるなら、全部 303 でいいことになります。そうならない理由があります。

現場での判断は、おおよそこう分かれます。

SUS303 を選びやすいケース

切削加工が主体。旋盤加工が多い
自動盤・量産で、切粉処理を楽にしたい
工具摩耗を抑えたい
溶接がない
強い耐食性が必要ない

SUS304 を選ぶケース

耐食性を重視する。水・湿気・薬品などにさらされる
溶接する
図面で SUS304 が指定されている
一般的なステンレス材として使いたい
材料調達の都合で 304 が適している

分かれ目は、耐食性と溶接です。

成分表に戻ると、303 は硫黄が桁違いに多く、クロムの下限が 1% 低いという形になっています。同じ 18-8 と呼ばれていても、規格上の値は別物だということです。

ただし、その成分差がどういう機構で耐食性や溶接性に効くのかまでは、ここでは踏み込みません。 一次資料で確かめられた範囲を超えるためです。

確かなのは、現場での選び方が上のように分かれているということと、規格の値が実際に違うということの二つになります。

形でも制約があります

SUS303 は、冷間圧延の板・帯の規格には収載されていません。 板で 303 を探しても出てこないのは、在庫の問題ではなく、規格の側の話です。

材料記号と規格番号の関係は、別の記事にまとめています。

→ 材料記号の読み方

見積もりでは、どこが動くか

受注する側から見ると、動くのは材料費ではありません。

材料費    比重が同じなので、重さは変わらない。キロ単価の差だけ
加工費    ★ ここが動く。切りくず処理、条件
段取り費  段取りの手間も動く
工具費    ★ ここも動く。寿命が変わり、交換の回数が変わる

304 は加工時間と工具費の両方に効いてきます。 材質が変わったときに材料単価だけ差し替えると、そのぶんが落ちたままになります。

考え方は、鋼種を変えたときと同じ構造です。

→ S45CとSCM435の違い

まとめ

成分      S  0.030以下 → 0.15以上(上限と下限で向きが逆)
          P と C も上がり、Cr の下限は 1% 低い

切りくず   303 は短く分断、304 は帯状につながって絡む
工具       304 は明らかに持ちが落ちる(加工硬化・熱・溶着・抵抗)
仕上がり   304 は刃先が落ちると急に悪くなる
歪み       ⚠ 材料記号だけでは決まらない。圧延状態・形状・削り方のほうが大きい
選び方     削りやすさなら 303。耐食性と溶接が要るなら 304
形         板の規格に 303 は無い
見積もり   材料費ではなく、加工費と工具費が動く

出典

※ 成分値は執筆時点で公開されていた規格表によるものです。読んでいる時点の規定は、リンク先で確かめてください。切削の条件や工具の寿命については、材種・機械・段取りによって変わるため、数値での比較は載せていません。

小次郎 切削工具・測定工具の販売(卸売)と、 NC旋盤・マシニングセンタでの加工。両方の実務経験があります。 運営者情報