カタログの切削条件をそのまま使えない理由
工具メーカーの推奨条件をそのまま入れたのに、工具が思ったより持たない。
こういうことが起きるのは、たぶん条件の読み方の問題ではなく、カタログ値がどういう状態の数字なのかという話だと思います。
カタログ値は「整った状態」の数字
工具メーカーが載せている推奨条件は、その工具の性能を出せる状態で測った値です。
| 機械の剛性が十分にある | |
| ワークがしっかりクランプされている | |
| クーラントが刃先に届いている | |
| 工具の突き出しが必要最小限 |
現場の条件は、たいていどれかが外れています。 そして外れた分だけ、条件を落とす必要が出てきます。
これはカタログが間違っているという話ではありません。メーカーは工具の性能を示しているのであって、こちらの機械とワークの状態は知りようがないからです。
下げる方向に効くもの
| 条件 | 起きること | 調整の向き |
|---|---|---|
| 工具の突き出しが長い | ビビり、たわみ | 切削速度と送りを下げる |
| クーラントが刃先に届いていない | 熱、溶着、寿命の低下 | 切削速度を下げる |
| ワークのクランプが弱い・薄物 | ビビり、変形 | 切込みと送りを下げる |
| チャッキングの突き出しが長い(旋盤) | たわみ、テーパーになる | 切込みを下げる。芯押しで支える |
| 断続切削(溝や穴のある面) | チッピング | 切削速度を下げる。靭性の高い材種へ |
| 機械の主軸に振れがある | 工具寿命のばらつき | 全体に下げる |
⚠ どのくらい下げるかは、ここでは書きません。 「突き出しが2倍なら速度を何%」といった補正率は、条件によって変わりすぎます。方向だけを見て、自社の実績で決めるしかないと思います。
突き出し量が一番効きやすい
上の中では、工具の突き出しが最初に疑うところだと思います。
突き出しが長くなると工具はたわみます。たわむと切込みが安定せず、ビビりが出ます。ビビりが出ると刃先が欠けます。そして、突き出しは段取りのときに決まってしまいます。
必要な長さだけ出す。 これだけで条件を落とさずに済むことがあります。深穴や奥まった形状で仕方ない場合は、そこで初めて条件を下げます。
上げられることもある
カタログ値は上限ではありません。
剛性の高い機械で、しっかりクランプされていて、クーラントが効いていて、突き出しが短ければ、推奨条件より上げられることがあります。
そして自社の実績値が一番確かです。 同じ工具で同じ材質を何度も削っているなら、そのときの条件と寿命が、どんなカタログよりも正確な情報になります。
カタログ値は出発点であって、答えではないという位置づけだと思います。
荒と仕上げで優先するものが違う
同じ工具でも、何を優先するかが変わります。
| 優先するもの | |
|---|---|
| 荒加工 | 切込み。単位時間あたりに落とす量を稼ぐ |
| 仕上げ加工 | 送りと面粗さ。寸法と表面が出ることが先 |
荒で送りを上げても、切込みが浅ければ時間は縮みません。 逆に仕上げで切込みを増やしても、面が悪くなるだけです。
条件を落とすときも同じで、荒なら切込みから、仕上げなら速度からという順序になります。
条件を変えると、原価も変わる
ここが見落とされやすいところだと思います。
切削条件は「工具が持つかどうか」の話として扱われがちですが、加工時間を通じて原価に直結します。
同じ部品で、3つの場合を計算してみます。旋盤工程の条件だけを変えたものです。
| 加工時間 | 工具寿命 | 旋盤の費用 | 納品1個あたりの原価 | |
|---|---|---|---|---|
| A 標準 | 8分/個 | 300個 | 621円 | 2,236円 |
| B 無理をして寿命が落ちた | 8分/個 | 100個 | 641円 | 2,257円 |
| C 速度を下げて寿命が延びた | 10分/個 | 500個 | 761円 | 2,377円 |
分かること
Bの寿命が3分の1になっても、原価は21円しか上がりません。
一方、Cで加工時間が25%伸びると、141円上がります。
工具寿命 300個 → 100個 +21円
加工時間 8分 → 10分 +141円
加工時間の方が、工具寿命よりはるかに大きく効きます。
これは工具価格が3,000円だからです。工具代を惜しんで切削条件を落とすと、加工時間の側で取り返せない額を失うことがあります。
もちろん、工具が折れて段取りをやり直すことになれば話は別です。工具代だけでなく、止まった時間の分が乗ります。Bのように「持つけれど寿命が短い」と、「折れる」は別の問題です。
→ 自分の条件で確かめるなら製造コスト計算ツールで2回計算して並べてください。
条件を決めるときの順番
① 工具メーカーのカタログ値を見る
② 突き出し・クランプ・クーラントの状態を確認する
③ 外れている分だけ落とす
④ 削ってみて、寿命と面を見る
⑤ 実績として記録する
⑤が一番大事だと思います。 記録が残っていれば、次から①に戻る必要がありません。そしてその記録は、見積もりの加工時間としてそのまま使えます。
まとめ
- カタログ値は剛性・クランプ・クーラントが整った状態の数字
- 下げる方向に効くのは突き出し・クーラント・クランプ・断続切削
- 具体的な補正率は条件によって変わりすぎる。 方向だけ見て自社で決める
- カタログ値は上限ではない。 条件が良ければ上げられる
- 加工時間の方が、工具寿命よりはるかに原価に効く
- 実績を記録すれば、見積もりの加工時間としてそのまま使える
切削速度から回転数と送り速度を出すなら切削条件計算ツールへ。旋盤とフライスの両方に対応していて、回転数から切削速度を逆算することもできます。
加工時間が原価にどう効くかは加工の見積もりの出し方に、材質が変わったときの話はS45CとSCM435の違いにまとめています。