段取り時間は原価にどう入れる?|機械チャージを乗せるかどうか
段取り費の計算式を調べると、2通りの説明が出てきます。
① 段取り費 = 段取り時間 × (機械チャージ + 人件費)
② 段取り費 = 段取り時間 × 人件費 ← 機械チャージを乗せない
どちらも、それなりの理屈で説明されています。どちらが正しいのか、というのがこの記事の話です。
先に結論を書くと、どちらも正しいです。 分かれているのは段取りの扱いではなく、「機械チャージ」という言葉に何を入れているかの方でした。
それぞれの言い分
乗せる側
段取り中も、その機械は他の仕事に使えません。
45分の段取りをしている間、その機械は占有されています。削っていないというだけで、空いているわけではありません。 減価償却も家賃も、その45分のあいだ発生し続けています。
だから、機械を確保していた時間として数えるという考え方です。
乗せない側
段取り中、機械は動いていません。
人と設備は別のものなので、それぞれ「使っている時間」だけを数えるという考え方です。段取り中は人が働いているので人件費、機械が自動で回っている間は設備が働いているので設備費。時間を分けて取れば、二重には数えないということになります。
この考え方だと、無人運転している時間には人件費が乗りません。 実際、夜間の無人運転を想定するなら、こちらの方が実態に近くなります。
分かれる理由は「機械チャージの中身」
並べてみると、対立しているのは段取りの話ではありませんでした。
| 機械チャージ = | 段取り中は? | 結論 |
|---|---|---|
| 減価償却・家賃など、時間で発生し続ける固定費 | 発生している | 乗せる |
| 電力・切削油など、動かすとかかる費用 | 発生しない | 乗せない |
同じ「機械チャージ」という言葉で、違うものを指しています。
そして多くの資料では、この2つが1つの数字にまとまっています。 まとまっているから、段取り中に乗せるか乗せないかを「どちらか」で決めるしかなくなります。
2つに分ければ、両方が成り立つ
このサイトでは、最初から2つを別の項目として持っています。
| 中身 | 段取り中 | |
|---|---|---|
| 機械チャージ | 減価償却・家賃・保険料・金利 | 発生する |
| 変動費 | 電力・切削油・消耗品 | 発生しない |
分けてあるので、段取りの式はこうなります。
段取り費 = 段取り時間 × (機械チャージ + 人件費)
↑変動費は乗せない
機械チャージは乗せて、変動費は乗せない。 「乗せる側」の言い分(固定費は発生し続ける)と、「乗せない側」の言い分(削っていない分はかからない)が、同時に成り立ちます。
→ 機械チャージに何を含めるかは機械チャージの計算方法に書いています。
乗せるかどうかで、いくら変わるか
数字で見ます。旋盤の機械チャージ1,600円/時・人件費2,500円/時、マシニングは2,600円/時・2,500円/時とします。
| 乗せる | 乗せない | 差 | |
|---|---|---|---|
| 旋盤の段取り 45分 | 3,075円 | 1,875円 | 1,200円 |
| マシニングの段取り 60分 | 5,100円 | 2,500円 | 2,600円 |
| 合計 | 8,175円 | 4,375円 | 3,800円 |
ロット全体で3,800円の差です。1個あたりに直すと、こうなります。
| ロット | 1個あたりの差 |
|---|---|
| 10個 | 380円 |
| 100個 | 38円 |
| 1,000個 | 4円 |
大ロットではほとんど効きません。小ロットでは効きます。
つまり、この議論が実際に金額を左右するのは小ロットのときということになります。単品や数個の仕事を多く受けている場合は、決めておいた方がいいと思います。
CAD/CAMの時間は、段取りとは別に持つ
ここは分けた方がいいと思います。
段取り時間の中に、CAD/CAMを触る時間を含めていることがあります。ただ、プログラムを作っている間、機械は動いていませんし、占有されてもいません。 その機械では別の仕事を流せます。
段取り = 段取り時間 × (機械チャージ + 人件費)
プログラム作成 = 作業時間 × 人件費 ← 機械チャージは乗らない
一緒にしてしまうと、機械チャージがその分だけ余計に乗ります。 90分のプログラム作成を段取りに含めると、この例では3,900円ほど過大になります。
そして性質も違います。プログラムは繰り返しの仕事なら0です。前回のものが使えます。段取りは毎回かかります。別に持っておけば、初回と2回目以降で単価を出し分けられます。
段取り時間はどう測るか
実測が一番確かです。 ただ、測るときに決めておくことがあります。
| どこから始まるか | 前の仕事が終わった時点か、工具を揃え始めた時点か |
| どこで終わるか | 1個目を削り始めた時点か、初品検査が終わった時点か |
| 段取り台での準備は含むか | 機械の外で工具を組む時間。機械は占有されていない |
初品検査までを段取りに含めるかは、分かれるところだと思います。含めない場合は、検査の側で数えることになります。どちらでもいいのですが、二重に数えたり、どちらからも落ちたりしないようにする必要があります。
段取り台での準備は、機械を占有していないのでプログラム作成と同じ扱いにすると筋が通ります。
段取り費はロットに1回。だから小ロットで効く
段取り費が見積もりで大きく効くのは、個数が増えても増えないからです。
45分の段取りは、10個作っても1,000個作っても45分です。1個あたりで見ると、ロットが小さいほど重くなります。
→ 数字で並べたものは小ロットで単価が高くなる理由にあります。
このサイトの計算で、正確でないところ
加工中ずっと人が張り付いている前提で計算しています。
実際には、機械が自動で回っている間、作業者は別の機械を見ていたり、次の段取りをしていたりします。無人運転なら誰もいません。 その時間の人件費を丸ごと乗せるのは、実態より高い側にずれます。
以前は「担当台数」という欄で割っていましたが、見積もりの時点では「そのとき何台動かしているか」が分からないことが多いため、なくしました。
分からない項目を置いても精度は上がりません。 割らずに出せば原価は高めに出ます。見積もりとしては安全側なので、そうしています。
複数台持ちを織り込みたい場合は、人件費の時間単価そのものを下げて入れてください。
まとめ
- 段取り中に機械チャージを乗せるかは、意見が分かれている
- 分かれる理由は、「機械チャージ」に固定費と変動費が混ざっていること
- 2つに分ければ、両方の言い分が同時に成り立つ(機械チャージは乗せる/変動費は乗せない)
- 差が効くのは小ロットのとき。1,000個ではほぼ効かない
- CAD/CAMの時間は段取りと分けて持つ。 機械チャージが乗らないため
- 測るときはどこで切るかを決めておく
自社の数字で確かめるなら、製造コスト計算ツールに段取り時間とプログラム・準備時間を別々に入れてみてください。
費用の分け方の全体は加工の見積もりの出し方にまとめています。
参考にした資料