小ロットで単価が高くなる理由|段取り費の按分を数字で見る
「同じ図面で10個だといくらになりますか」
100個で見積もったあとに、こう聞かれることがあります。ここで「だいたい1.5倍くらいで」と勘で答えていると、数量によっては赤字になります。
この記事では、同じ部品で数量だけ変えて、金額を並べます。 なぜ高くなるかの説明ではなく、いくら違うかの話です。
同じ部品で、数量だけ変えてみる
条件はこうです。変えるのは数量だけで、形状も工程も同じものです。
| 部品 | S45C 丸棒 φ50 × 105mm から削り出し |
| 工程 | 旋盤 → マシニング → 熱処理(外注) → 三次元測定(抜取10%) |
結果を並べます。
| ロット | 納品1個あたり |
|---|---|
| 1個 | 29,192円 |
| 5個 | 7,332円 |
| 10個 | 4,600円 |
| 50個 | 2,528円 |
| 100個 | 2,236円 |
| 500個 | 2,019円 |
| 1,000個 | 1,991円 |
1個と1,000個で15倍近く違います。 10個でも1,000個の2.3倍です。
そして100個を超えたあたりから、下がり方が急に鈍くなります。 100個で2,236円、1,000個で1,991円。10倍にしても11%しか下がりません。
差はどこから来ているか
費用はかかり方で2つに分かれます。
| 数量を変えると | 入るもの | |
|---|---|---|
| 個数で増える | 1個あたりは変わらない | 材料費・加工費・人件費・工具費・1個ごとの外注 |
| ロットに1回 | 1個あたりが変わる | 段取り費・プログラム作成・治具 |
この部品では、ロットに1回かかる費用が26,925円あります。内訳はこうです。
| 金額 | |
|---|---|
| 旋盤の段取り(45分) | 3,075円 |
| マシニングの段取り(60分) | 5,100円 |
| プログラム作成(90分) | 3,750円 |
| 治具 | 15,000円 |
| 合計 | 26,925円 |
この26,925円を、何個で割るかという話です。
| ロット | 26,925円 ÷ 個数 |
|---|---|
| 10個 | 2,693円/個 |
| 100個 | 269円/個 |
| 1,000個 | 27円/個 |
10個と1,000個の差は2,666円。実際の単価差は2,609円ですから、ほぼ全部がこれで説明できます。 残りは不良の見込みの分です。
「小ロットだから高い」のではなく、「26,925円を10で割るか1,000で割るか」の違いということになります。
ロットに1回かかるものは4つ
段取り費
段取り費 = 段取り時間 × (機械チャージ + 人件費)
45分の段取りは、10個作っても1,000個作っても45分です。 そして段取り中も機械は占有されているので、機械チャージが乗ります。
→ 段取り中に機械チャージを乗せるかどうかは意見が分かれるところです。段取り時間は原価にどう入れる?に書いています。
プログラム作成
CAD/CAMを触る時間です。機械が動いていないので、機械チャージは乗りません。人件費だけです。
繰り返しの仕事なら0になります。前回のプログラムがそのまま使えるからです。新規の部品でだけ発生する費用なので、初回と2回目以降で単価が変わることになります。
治具・専用工具
この例では15,000円で、ロットに1回かかる費用の中では一番大きいです。段取り費2回分より大きくなっています。
次の仕事でも使えるなら、1回のロットに全部乗せるのは重すぎます。何回か使う見込みがあるなら、その回数で割って考えることになります。ただし、次があるかどうかは受注時点では分かりません。
外注の最低ロット料金
熱処理や表面処理には、個数が少なくても最低の金額が決まっていることがあります。この例では1個ごとの単価にしていますが、最低ロット料金がある場合は、そのまま「ロットに1回」に入ります。
「小ロットだから高い」では説明にならない
小ロットの見積もりを出したときに、「なぜこんなに高いのか」と聞かれることがあります。
ここで「小ロットなので」と答えると、値段の理由を説明していないことになります。 相手からは「数が少ないから高く取っている」ように見えます。
一方で、こう出せば話が変わります。
この部品は、数量にかかわらず26,925円の準備費用がかかります。 内訳は段取り8,175円・プログラム作成3,750円・治具15,000円です。 10個だと1個あたり2,693円、100個だと269円になります。
同じ金額でも、受け取られ方が違います。 そして「治具の15,000円は次回から不要です」と言えるなら、次の話につながります。
構造を見せられるかどうかは、見積もりの根拠を持っているかどうかです。
小ロットを安くする方法は、段取りを減らすことだけ
単価を下げようとすると、加工時間を削る方に目が行きがちです。ただ、小ロットでは加工時間の影響が小さいです。この例で10個のとき、単価4,600円のうち加工にかかっているのは2,000円弱です。
効くのは、ロットに1回かかる費用の方です。
| 同時に流す | 似た部品をまとめて段取りする。段取り1回を複数の仕事で分ける |
| 治具を使い回す | 汎用の治具で済ませられないか。専用治具は1回で償却しきれない |
| プログラムを残す | 次に同じ図面が来たときに、作り直さないで済む形にしておく |
| 段取り替えを短くする | 工具を段取り台で組んでおく、ワークの取り付けを標準化する |
逆に言えば、これができない仕事は小ロットで安くなりません。 そのときは、安くできない理由を数字で示す方が話が早いと思います。
何個からなら受けられるか
「この数量では合わない」という判断も、同じ計算でできます。
納品1個あたり = 個数で増える費用 + ロットに1回かかる費用 ÷ 個数
客先の想定単価が決まっている場合は、この式を逆に見ます。想定単価から個数で増える費用を引いた残りが、ロットに1回かかる費用を吸収できる額です。
ただし、この線は会社によって違います。 段取りが速い会社なら小ロットでも合いますし、専用治具が要る部品なら数量がまとまらないと厳しくなります。自社の数字で見ないと意味がありません。
まとめ
- 小ロットの単価が高いのは、ロットに1回かかる費用を少ない個数で割るため
- この例では26,925円。10個なら1個あたり2,693円、1,000個なら27円
- 内訳は段取り・プログラム作成・治具・外注の最低ロット料金
- 「小ロットだから」では説明にならない。 構造を出すと話が変わる
- 安くする方法は段取りを減らすこと。加工時間を削っても効きにくい
自社の部品で同じ表を作るなら、製造コスト計算ツールの「比べるロット数」に数量を並べてください。上の例は「サンプルを開く」でそのまま再現できます。
費用の分け方そのものは加工の見積もりの出し方にまとめています。