見積もりで赤字になりやすい5つの抜け
見積もりが赤字になったとき、原因を「安く出しすぎた」と考えることが多いと思います。
ただ、金額を決めるときに入れ忘れた費用は、そのまま赤字になります。 値引きしたわけでもなく、想定より時間がかかったわけでもないのに、終わってみると残っていない。入れ忘れは、値引きと違って気づきにくいところが厄介です。
この記事では、抜けやすい5つを挙げます。そして最後に、抜けたまま計算した金額と、全部入れた金額を並べます。
1. 段取り費
一番抜けやすいのは、たぶんこれです。
段取りは「作業」というより「準備」として扱われがちで、時間として数えられていないことがあります。その日のうちに終わってしまうので、費用が発生したという感覚が残りません。
段取り費 = 段取り時間 × (機械チャージ + 人件費)
段取り中も機械は占有されています。 その時間、他の仕事はその機械に流せません。削っていないからといって機械チャージを外すと、その分が原価から消えます。
そして段取りはロットに1回なので、個数が少ないほど1個あたりが重くなります。
→ 詳しくは段取り時間は原価にどう入れる?
2. 検査費
検査は工程表に載らないことがあります。 載っていないものは、見積もりのときに数えられません。
検査費 = 検査個数 × 検査時間 × 検査チャージ
抜けやすいのは2か所です。
ひとつは検査個数です。全数検査なのに、抜き取りのつもりで計算していることがあります。逆に、抜き取りでいいのに全数で見て高く出していることもあります。どちらも図面や仕様書に書いてあるはずのものです。
もうひとつは検査チャージです。三次元測定機を使うなら、その設備のチャージも乗ります。 検査員の人件費だけで計算すると、実態より安く出ます。測定機は機械であって、機械には機械チャージがあります。
この2か所で金額がいくら動くかは、検査費はいくら乗るのかにまとめています。全数と抜取りで1個あたり368円、測定機のチャージを入れ忘れると100個で15,450円の差でした。
3. 不良の見込み
100個の注文に、100個ぶんの原価を出していないでしょうか。
100個納めるのに3個落ちる見込みなら、103個作ることになります。 材料も103個ぶん要りますし、加工時間も103個ぶんかかります。熱処理に出すなら103個ぶんの請求が来ます。
ここでやりがちなのが、「1個あたり原価 ÷ (1 − 不良率)」という計算です。これをやると段取り費まで割ってしまい、今度は原価が過大に出ます。 段取りは不良が出ても増えません。1回は1回です。
個数で入れれば、この間違いは起きません。 そして「不良率は何%ですか」より「何個余分に流しますか」の方が答えやすいと思います。
4. プログラム作成・準備
自社でやる作業は、タダになりがちです。
CAD/CAMを触る時間、図面を読んで工程を組む時間、治具を組む時間。外注すれば請求書が来るものが、自社でやると請求書が来ません。 請求書が来ないものは、見積もりに入りにくくなります。
ただし、その時間は誰かが働いています。人件費は発生しています。
プログラム作成の費用 = 作業時間 × 人件費
機械は動いていないので、機械チャージは乗りません。 段取り時間と一緒にしてしまうと、機械チャージがその分だけ余計に乗るので、分けて入れた方が実態に近くなります。
繰り返しの仕事なら0でかまいません。新規の部品でだけ発生する費用なので、初回と2回目以降で単価が変わることになります。
5. 治具・専用工具
ここは両極端になりやすいところです。
| 起きること | |
|---|---|
| 初回ロットに全部乗せる | 単価が跳ね上がって、失注する |
| 乗せない | 治具代がそのまま利益から出ていく |
次の仕事でも使えるかどうかで決まる話です。汎用の治具として残るなら、何回か使う見込みで割って考えることになります。その仕事のためだけに作ったなら、1回で見るしかありません。
ただ、次があるかどうかは受注の時点では分かりません。 ここは判断になります。少なくとも、判断していることを自覚しておく必要はあると思います。
抜けたまま計算すると、いくら変わるか
同じ部品で、5つを全部抜いた場合と、全部入れた場合を計算します。
| 部品 | S45C 丸棒 φ50 × 105mm から削り出し |
| 数量 | 100個 |
| 工程 | 旋盤 → マシニング → 熱処理(外注) → 三次元測定 |
抜けたままの計算は、材料費・加工費・工具費・外注費だけを入れたものです。段取り0分、検査なし、不良0個、プログラム作成0分、治具0円。
| 納品1個あたり | ロット100個の合計 | |
|---|---|---|
| 抜けたまま | 1,867円 | 186,717円 |
| 全部入れた | 2,236円 | 223,643円 |
| 差 | 369円 | 36,926円 |
1個あたり369円、率にすると約20%です。
ロット全体で36,926円。この金額で見積もりを出していたら、利益が20%あっても足りません。
1つずつ足すと
抜けたままの1,867円に、1つずつ戻していきます。
| 足したもの | 納品1個あたり | 増える額 |
|---|---|---|
| 段取り(45分+60分) | 1,949円 | +82円 |
| 検査(抜取10%・6分/個) | 1,907円 | +40円 |
| 不良の見込み3個 | 1,923円 | +56円 |
| プログラム作成 90分 | 1,905円 | +38円 |
| 治具 15,000円 | 2,017円 | +150円 |
一番大きいのは治具でした。 段取り2回分より大きくなっています。
そしてどれも単体では数十円です。「まあ誤差だろう」と思える大きさで、だからこそ落ちます。落ちたものを足すと369円になります。
抜けやすいものには共通点がある
並べてみると、5つには似たところがあります。
| 請求書が来ない | 段取り・プログラム作成は、自社の中で終わる |
| 図面に書いていない | 検査の方法、不良の見込み |
| 削っている時間ではない | 段取り・検査・準備 |
「削っている時間」だけを数えると、この5つは全部落ちます。 加工時間 × チャージで見積もりを出している場合は、特に注意が要ると思います。
まとめ
- 赤字は「安く出した」から起きるとは限らない。入れ忘れがそのまま赤字になる
- 抜けやすいのは段取り費・検査費・不良の見込み・プログラム作成・治具
- この例では1個あたり369円、100個で36,926円の差
- どれも単体では数十円。だから落ちる
- 共通点は「請求書が来ない・図面に書いていない・削っている時間ではない」
自分の見積もりに漏れがないか確かめるなら、製造コスト計算ツールに同じ条件を入れて、手元の金額と比べてみてください。ずれた分が、いま見えていない費用ということになります。
費用の分け方は加工の見積もりの出し方に、小ロットでこれがどう効くかは小ロットで単価が高くなる理由にまとめています。