小ロットで1個余分に流す理由は、材料代ではなく段取り
製造原価計算で、自分の数字でそのまま計算できます(登録は要りません)。
不良の見込みを見積もりに入れること自体は、金属加工の見積もりの出し方 と 見積もりから漏れやすい5つの費用 に書きました。率ではなく個数で入れる、という話です。
ここでは、その次の問いを扱います。では、何個にするのか。
なお、材料を余分に取る理由は、落ちたときの保険だけではありません。段取りでの試し削りや、初品を切って中を確かめる分を見込むこともあります。この記事で扱うのは、そのうち「加工の途中で落ちる分」です。
率は発注の言葉、個数は見積もりの言葉
「不良率3%」という数字を、材料の発注の側で持っている会社は多いと思います。材料を何個買うかを決めるには、率で持っている方が扱いやすいからです(品質管理の数字として、工程ごとの不良率を持っている場合もあります)。まとめて何千個と流す部品なら、率で置いても実態と合います。
ただ、その率をそのまま小ロットに当てると、おかしなことになります。
| 納品数 | 3% を当てると | 個数にすると |
|---|---|---|
| 100個 | 3.0個 | 3個 |
| 30個 | 0.9個 | 1個 |
| 10個 | 0.3個 | 0個 |
10個の仕事では、不良の見込みが0個になります。
率が間違っているわけではありません。3%というのは「100個流せば3個くらい落ちる」という意味であって、10個流したときに0.3個落ちるという意味ではないからです。落ちるときは1個落ちます。
材料は1個からでも買えることが多い
「余分に流すと材料が余る」と考えると、1個の追加はもったいなく見えます。丸棒を1本まるごと買う前提なら、その通りです。
ただ、実際には仕入れ先で切ってもらえることが多いです。 φ50の丸棒を厚み10mm、1個だけという注文が通ることもあります。
⚠ ここは仕入れ先によります。 切断の手数料が別にかかるところ、1回の注文に最低金額があるところ、切り売りをしていないところもあります。端数ぶんの単価も上がります。取引のある仕入れ先に、一度確かめておくのが確実です。
それでも、「1本単位でしか買えないから余分を持てない」とは限りません。
つまり、1個余分に流すかどうかは、材料の買い方だけでは決まりません。
費用を決めているのは、2つ
「1個落ちた」の結末は、次の2つで決まります。
| 何が決まるか | |
|---|---|
| 余分の材料が手元にあるか | ★ 段取りをやり直すことになるかどうか |
| どこで落ちたか | その1個に、いくらかかっていたか |
下の方から見ていきます。
サンプルの部品は、旋盤 → マシニング → 熱処理 → 三次元測定 という流れです。旋盤で落ちた場合、その1個はマシニングにも熱処理にも進みません。後工程に流すのは、落ちた1個を除いた数です。熱処理の外注先に送るのも、その数になります。
三次元測定で落ちた場合は、材料も加工も熱処理も、すべてかかったあとです。
⚠ ただし、どちらも「余分の1個にいくらかかったか」の話でしかありません。金額を大きく動かすのは、上の方です。
材料が手元に無いと、待つかバラすかになる
10個の注文に、10個ぶんだけ材料を用意したとします。1個落ちました。
納品できるのは9個です。足りない1個を作るには、まず材料が要ります。 ここで、機械をどうするかという判断が出てきます。
待つ 材料が届くまで、その機械を空けておく
バラす 別の仕事に段取りを替える。⚠ 材料が来たら、もう一度段取りをやり直す
このサンプルなら、段取りをやり直す手間は105分です(旋盤45分 + マシニング60分)。
⚠ ここで、「待つ方がタダ」ではありません。
機械チャージは、年間の固定費を実稼働時間で割ったものです。機械チャージの計算方法 に書いたとおり、材料待ちや機械が空いている時間は稼働率から外れ、その固定費はほかの仕事の時間に乗ります。段取りの時間には、段取り費として機械チャージがそのまま乗ります。
待っていても、段取りをしていても、機械は削っていません。 どちらでも固定費は同じように流れ続けます。
常備している丸棒で、翌日に入るなら、段取りを残して待つ判断はありえます。 一方、特殊な材料で入手に1週間かかるなら、機械を1週間止め続ける方がずっと高くつきます。 105分と5日間では比べるまでもありません。
⚠ この線は、かなり単純化しています
実際の現場は、分単位でこの計算をしていません。 上の線は、次を前提にしています。
| 機械は埋まっている | 入れる仕事が無いなら、バラしても削る時間は増えません |
| 段取り替えの手間と危険を数えていない | 替えるたびに、狂う可能性があります |
| 材料の納期が読める | 「明日には来るはず」が外れることがあります |
⚠ 線を引く意味は、判断を機械にすることではありません。 「なんとなく待つ」「なんとなくバラす」で決めていたものに、105分という比べる相手を1つ置くことです。
そして、段取りをやり直すことになった場合——それが、次の金額です。
余分の1個は、いくらか
どこまで進むかで変わります。
| 余分の1個が落ちる/不要と分かる場所 | かかった費用 |
|---|---|
| 旋盤 | 1,220円 |
| マシニング | 1,687円 |
| 熱処理のあと | 1,867円 |
| 三次元測定(全工程を通ったあと) | 2,267円 |
早く分かるほど安く済みます。 旋盤で分かれば、マシニングの加工費も熱処理の外注費も乗りません。
⭕ 一番高い2,267円でも、余分を持っていれば追加はここまでです。そして段取りは無傷のままです。
以下は、いちばん条件の悪い場合——三次元測定で分かり、しかも余分を持っていなかった場合で比べます。
1個余分に流していた 2,267円
流しておらず、作り直す 10,442円
内訳を並べると、差がどこにあるかがはっきりします。
| 1個余分に流す | 作り直す | |
|---|---|---|
| 材料・加工・外注・検査(1個ぶん) | 2,267円 | 2,267円 |
| 段取りのやり直し | — | 8,175円 |
| 合計 | 2,267円 | 10,442円 |
1個ぶんの費用は、どちらも同じです。 違うのは段取りだけです。
段取りの中身は、この2つです。
| 工程 | 段取り時間 | 機械チャージ + 人件費 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 旋盤 | 45分 | 1,600 + 2,500 円/時 | 3,075円 |
| マシニング | 60分 | 2,600 + 2,500 円/時 | 5,100円 |
| 合計 | 8,175円 |
10,442 ÷ 2,267 で、4.6倍です。
⚠ 2回目の段取りで、戻ってこないものだけを数えています
作り直しの10,442円には、意図的に入れていないものがあります。
| 2回目 | 理由 | |
|---|---|---|
| 段取り時間 | ⭕ かかる | 段取りをバラしたので、もう一度つかみ直す |
| プログラム・準備 | ✕ かからない | 一度作ったものが残っている |
| 治具・専用工具 | ✕ かからない | もう手元にある |
| 材料・加工・熱処理 | ⭕ かかる | ⚠ 作り直す1個は、もう一度全工程を通る |
このサンプルでは、治具の15,000円とプログラムの90分を2回目から外しています。 入れれば差はもっと開きますが、実態に合いません。
⚠ 熱処理がかかるのは、この場合だけです。前の節のとおり、旋盤の段階で分かっていれば、その1個は熱処理に送られません。
ロットが小さいほど、単価に効く
同じ8,175円でも、何個で割るかで重みが変わります。
| 納品数 | 無事に終わったとき | 1個余分に流す | 1個落ちて作り直す |
|---|---|---|---|
| 10個 | 4,600円 | 4,826円 | 5,644円 |
| 30個 | 2,805円 | 2,880円 | 3,153円 |
| 100個 | 2,176円 | 2,199円 | 2,281円 |
10個の仕事では、余分を流しておくと226円/個、落ちてから作ると1,044円/個。 差は818円で、無事に終わったときの単価4,600円に対しておよそ18%です。
100個なら、同じことが起きても1個あたり105円しか動きません(2,176円 → 2,281円)。同じ出来事でも、小ロットの方が痛いということになります。
これは 1個と1,000個で単価が15倍違う理由 と同じ構造です。ロットに1回かかるものは、数量が少ないほど1個あたりに重くのしかかります。
何個にするか
結論を1つに決めることはできません。 工程数、材質、初回かどうかで変わります。
ただ、判断の順番は決められます。
- 初回は多めに取る。 削ってみるまで分からないことがあります
- 2回目以降は、前回の実績に合わせて動かす。 余ったら減らす、足りなかったら増やす
- 小ロットほど、余分の1個を惜しまない。 上の表のとおり、落ちたときの跳ね返りが大きくなります
2は「減らす」方向だけではありません。初回で余裕がなかったなら、増やす方が正しいということになります。
まとめ
- 率は材料の発注、個数は見積もり。同じ数字ではない
- 率をそのまま小ロットに当てると、納品10個では0個になる
- 材料は1個からでも買える。制約は材料ではない
- ★ 金額を決めているのは、余分の材料が手元にあるか。段取りを守れるのはそれ
- 手元に無いと、待つかバラすかになる。⚠ 待つ方がタダではない(どちらも削っていない)
- ★ 見るのは削っている時間。分かれ目は段取り2回ぶん(105分)
- どこで落ちたかは、その1個の費用を決める。旋盤なら1,220円、最後まで行けば2,267円
- 余分を持たずに作り直すと10,442円。同じ条件で比べて4.6倍
- 小ロットほど単価への跳ね返りが大きい。10個では818円/個の差
- 何個にするかは、実績で動かす。減らすとは限らない
※ 金額はサンプルの部品(旋盤・マシニング・熱処理・三次元測定)で計算した例です。工程・チャージ・材質が変われば数字も変わります。