試作・単品が高いのは、段取りだけではない|量産とは作り方が違う
製造原価計算で、自分の数字でそのまま計算できます(登録は要りません)。
試作を1個、あるいは数個だけ作る仕事は、量産に比べて1個あたりが高くなることが多いです。
よく言われる理由は段取りです。段取りやプログラム作成のように、ロットに1回かかる費用を少ない個数で割るので高くなる。これは間違いではありません。
ただ、それだけで説明できるのは、試作と量産を同じ作り方で作る場合に限られます。実際には、個数が変わると作り方そのものが変わることが多いです。
ここでは、1〜数個の試作や単品の仕事をまとめて「試作」と呼びます。
割り算で説明できるのは、作り方が同じときだけ
ロットに1回かかる費用を個数で割る話は、小ロットで単価が高くなる理由に数字で書いています。
納品1個あたり = 個数で増える費用 + ロットに1回かかる費用 ÷ 個数
この式では、段取りの中身も、1個あたりの加工時間も、個数によらず同じと置いています。10個でも1,000個でも、同じ治具を使い、同じ条件で削る前提です。
試作と量産を比べるときは、この前提が崩れることがあります。
個数によって、作り方の選び方が変わる
固定のしかた
量産では、一番よい状態でチャッキングやクランプができるように、生爪を成形することが多いです。数が多いほど、つかみが安定することが効いてきやすいからです。
少量なら、すでにある生爪を流用することもあります。成形する手間を、数個の仕事にまるごと乗せることになるためです。
工具
量産で、特に特殊な工具が要る場合は、特殊品をメーカーに依頼した方が安くつくこともあります。製作の費用がかかっても、数で割れば1個あたりは小さくなります。
試作では、市販品や、社内で成形した工具で済ませることもあります。数個のために特殊品を頼むと、その費用がほぼそのまま試作の原価に乗ります。
→ 専用工具を原価にどう入れるかは、エンドミルの選び方の「専用工具は話が別です」に書いています。
切削条件とプログラム
量産は、加工を進めるなかで条件とプログラムを詰めていきやすいのが大きな違いです。何十個、何百個と削るうちに、無駄な動きや、もう少し上げられる条件が見えてくることがあります。
試作では、その機会が限られます。詰めきる前の条件とプログラムで削ることが多くなります。
試作の単価から、量産の単価はそのままでは出ない
ここまでをまとめると、試作と量産では次のものが入れ替わります。
| 試作 | 量産 | |
|---|---|---|
| 固定 | 既存の生爪を流用することも | 生爪を成形することが多い |
| 工具 | 市販品・社内で成形した工具 | 特殊品をメーカーに頼むことも |
| 条件・プログラム | 詰める前のもの | 進めながら詰めていく |
段取り費を割り直すだけでは、表の左の列を右の列に入れ替えたことになりません。
逆向きに外れることもあります。量産の作り方を前提に試作を見積もると、生爪の成形や特殊工具の費用を、数個に乗せることになりかねません。反対に、量産の見込みで詰めた加工時間を試作に使うと、試作の時間が足りなくなることがあります。
検査は、発注の内容で決まる
試作と量産で検査の中身が変わるかどうかは、客先の発注内容によります。 試作だから全寸法を測る、量産だから抜取り、と決まっているわけではありません。
見積もりの段階で、それぞれの発注に何が求められているかを確かめて、検査の時間を別々に置くことになります。検査の個数と費用の関係は、検査費はいくら乗るのかに書いています。
「量産ならいくら?」と聞かれたとき
試作の見積もりを出したあとに、量産の単価を聞かれることがあります。
このときは、改めて打ち合わせをして、見積もりを出し直すのが筋だと思います。作り方が変わる以上、試作の数字から換算した単価は、根拠の弱い数字になりやすいからです。
ただ、最初の見積もり依頼の段階で、「◯個の場合」「□個の場合」と数量を指定されることもあります。依頼が1パターンだけでも、「年間◯個の予定」と書かれていることもあります。
こういうときは、数量ごとに作り方を決めてから、それぞれ計算することになります。
「量産を約束するから、試作を安く」と言われたら
試作の段階で、量産の話と合わせて値下げを求められる場面もあると思います。
それでも、試作が赤字になっては意味がありません。 量産が本当に来るかどうかは、試作の時点では分からないことも多いからです。
値下げの話になったときは、先にどこまでなら引けるかを数字で持っておくと判断しやすくなります。提示額計算は、販管費と利益を乗せた提示額と一緒に、「あと何%引けるか」を出します。それ以上引くと、利益がゼロになる線です。
⚠ 販管費は、値引きで削れる分には数えていません。そのぶん製造原価まで下がる前に、利益の方が先になくなります。
まとめ
- 段取り費を個数で割る説明がそのまま当てはまるのは、作り方が同じとき
- 個数によって、生爪を成形するか流用するか、特殊工具を頼むか市販品で済ませるかが変わる
- 量産は条件とプログラムを詰めていきやすい。試作の時間は量産の時間の代わりになりにくい
- 検査は、試作か量産かではなく、客先の発注内容で決まる
- 「量産ならいくら?」には、打ち合わせと見積もりのやり直しで答えるのが筋。数量を指定されたら、作り方ごとに計算する
- 値下げを求められたら、どこまで引けるかを先に数字で持っておく