エンドミルの種類と選び方|刃数と先端形状が原価のどこに出るか
工具メーカーのカタログを開くと、同じ φ10 のエンドミルが何十種類も並んでいます。
どれが一番いいのか、という選び方はできません。 ほとんどの違いが交換条件になっているからです。
エンドミルに「いい工具」は無い
先に一覧にします。 どれも、片方を取れば片方を失う関係です。
| 何を選ぶか | 得るもの | ⚠ 捨てるもの |
|---|---|---|
| 刃数を増やす | 1回転あたりの送りが増える。芯が太くなり剛性が上がる | 切りくずの逃げ場が狭くなる |
| 刃先を鋭くする | 切れ味。切削抵抗が下がる | 刃先が弱くなる。欠けやすい |
| 角にRを付ける | 角が欠けにくい | ピン角が削れない |
| 超硬にする | 硬い。熱に強い。たわみにくい | 粘りが無い。欠けやすい |
| ねじれ角を大きくする | 切れ味が良く、面がきれい | ワークを上に引き上げる力が増える |
つまり「この加工で何を捨てるか」を決めるのが、工具の選定です。
では何を基準に捨てるものを決めるのか。 記事の最後で、そこを金額に直します。
刃数 — どちらに振るかは、加工の形で決まる
刃数は送り速度に直接効きます。
F = fz × z × N
fz 1刃あたりの送り(mm/刃)
z 刃数
N 回転数(min⁻¹)
同じ fz、同じ回転数なら、4枚刃は2枚刃の2倍の送りで進めます。 加工時間がそのまま半分になる計算です。
⚠ ただし、これは切りくずが逃げられる場合の話です。
溝を削るときは、逆になることがあります
溝切削は、工具の幅いっぱいで削ります。 切りくずの逃げ場が、刃と刃のあいだの溝(チップポケット)しかありません。
刃数を増やすと、このポケットが狭くなります。
2枚刃 ポケットが広い。切りくずが出ていける
4枚刃 ポケットが狭い。溝では詰まる
詰まった切りくずは、もう一度削られます。 熱を持ち、刃先が傷み、最悪は工具が折れます。
送りを上げられるはずの4枚刃が、溝では2枚刃より遅いということが起こります。
| 加工 | 切りくずの逃げ場 | 向く刃数 |
|---|---|---|
| 溝・深い切込み | ポケットだけ | 少ない |
| 側面の浅い切込み・輪郭 | 横が開いている | 多くてよい |
⚠ アルミは特にこの影響が出ます。 切りくずが長く伸びて絡むので、2枚刃や3枚刃が使われます。
⚠ センターカットでも、真下には突っ込みにくい
底刃が中心まで来ている工具を、センターカットと呼びます。 中心に刃が無い工具で軸方向に押し込むと、中心部が削れずに押し付けるだけになり、折れます。
ただし、中心に刃があれば穴あけのように使える、という意味ではありません。
理由は2つあります。
① 中心付近は、切削速度がほぼ 0 です。
切削速度は径で決まります。中心は径が 0 なので、どれだけ回しても切れません。押し付けているのに近い状態になります。
② 切りくずの逃げ道がありません。 真下に入れると、削った切りくずは工具の脇を上がるしかありません。
そのため、現場ではヘリカル(らせん)や傾斜での進入が基本になります。斜めに入れば、常に横が開いた状態で削れます。
⚠ 進入の仕方を変えると、プログラムの手間が増えます。 これは切削時間ではなく段取り側の時間として出ます。
先端の形 — 角が最初に欠ける
| 特徴 | ⚠ 交換条件 | |
|---|---|---|
| スクエア | 底が平ら。ピン角が削れる | 角が90度で最も弱い。欠けやすい |
| ラジアス | 角にRが付いている。欠けにくい | ピン角が残せない |
| ボール | 先端が球。曲面が削れる | 平面の能率が悪い |
荒取りでラジアスが主力なのは、角が持つからです。 スクエアの角は2方向から同時に力と熱を受けるので、工具の中で最初に傷みます。
⚠ ボールエンドミルは、実際に削っている径が工具径ではありません。 切込みが浅いほど小さくなります。回転数を工具径で計算すると、切削速度が大きく足りません。
ハイスか超硬か — 上位互換ではない
超硬が常に良いわけではありません。
超硬 硬い・熱に強い・たわみにくい ←→ ⚠ 粘りが無い。欠けやすい
ハイス 粘る。欠けにくい・安い ←→ ⚠ 熱に弱い。速度を上げられない
超硬は、機械と保持がしっかりしていることが前提です。 断続切削、びびり、剛性の低い機械、突き出しの長い状態では、硬さがそのまま欠けやすさとして出ます。
古い汎用機でハイスが残っているのは、買い替えていないからではなく、そのほうが持つという場合があります。
⚠ たわみと突き出しの関係は、別の記事にまとめています。
★ 交換条件を、金額で決める
ここまで全部「場合による」で終わっています。 判断する物差しが要ります。
工具は、1本の値段では比べられません。1個あたりいくらかに直します。
工具費/個 = 工具の単価 ÷ 寿命の間に削れる個数
仮の数字で並べてみます。 機械チャージ 3,000円/時(=50円/分)とします。
| ハイス | 超硬 | |
|---|---|---|
| 工具の単価 | 3,000円 | 9,000円 |
| 寿命 | 200個 | 800個 |
| 工具費/個 | 15円 | 11円 |
| 1個の加工時間 | 10分 | 4分 |
| 加工費/個 | 500円 | 200円 |
| 合計 | 515円 | 211円 |
⚠ この数字は仮の例で、相場ではありません。 材料と形状と機械で変わります。
見てほしいのは内訳の比です。 工具費の差は4円しかありませんが、加工時間の差が300円あります。
工具が3倍高いことは、この比較ではほとんど問題になっていません。
⚠ 「高い工具を避ける」という判断は、たいてい損をします。 動いているのは工具費ではなく、加工時間 × 機械チャージのほうだからです。
⚠ ただし、専用工具は話が別です
上の計算が成り立つのは、次の仕事でも使う汎用の工具だからです。
その仕事のためだけに買った特殊径や総形の工具は、そのロットで割ることになります。
総形工具 40,000円 ÷ ロット10個 = 4,000円/個
部品そのものより高くなることがあります。 小ロットで工具費が効いてくるのは、この形のときです。
⚠ 見積もりでは、汎用工具と専用工具を分けて扱う必要があります。 前者は寿命個数で割り、後者はロット数で割ります。
まとめ
エンドミルに「いい工具」は無い
→ この加工で何を捨てるかを決める
刃数 送りは増える ←→ 切りくずが詰まる
⚠ 溝では刃数が少ない方が速いことがある
底刃 センターカットでも、真下には入れにくい
中心は切削速度が0。ヘリカルか傾斜で入る
先端 角が最初に欠ける。ラジアスは角を守る代わりにピン角を捨てる
材質 超硬は上位互換ではない。欠けやすさと引き換え
決め方 工具費/個 と 加工時間 × 機械チャージ を並べる
⚠ たいてい加工時間のほうが大きく動く
⚠ 専用工具だけは、ロット数で割る