下請法(取適法)のやり直し・返品|費用を請求できる範囲

公開 2026/9/5 ・ 法令・制度 ・ およそ6分で読めます

図面が変わって作り直しになった。検収のあとで戻ってきた。無償で手直しを頼まれた。

その費用を誰が持つのかは、2026年1月1日に施行された取適法(旧・下請法)に書かれています。

ただし、法律が決めているのは「無料でやらせてはいけない」というところまでです。いくらかかったのかを出すのは、受注側の仕事になります。

加工でよく起きる4つの場面

委託事業者(旧・親事業者)に禁止されている行為は11あります。そのうち、加工の現場で当たるのは主に4つです。

起きること当たりうる禁止行為
発注を取り消された。納期を延ばされて引き取ってもらえない受領拒否
検収のあとで戻ってきた返品
図面が変わって作り直しになった不当な給付内容の変更
手直し・追加工を無償で頼まれた不当なやり直し

共通しているのは「費用を負担しないこと」

「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」は、条文ではこう書かれています。

中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
給付の内容を変更させ、又は給付を受領した後にやり直させること

公正取引委員会が公表している違反例を見ると、共通点がはっきりします。

  • 完成品の納入後、瑕疵がないのに修正させ、追加費用を負担しなかった
  • 十分な説明をしないまま作業させ、後日自社の都合でやり直しをさせ、変更に要した費用を負担しなかった
  • 金型製造で、検査基準を一方的に変更し、無償でやり直しを求めた

「やり直しをさせたこと」ではなく、「費用を負担しなかったこと」が問題になっています。

裏を返すと、費用がいくらか分からなければ、この条文は使えません。

返品はどこまで認められるか

返品ができるのは、受注側に責めに帰すべき理由がある場合に限られます。具体的には、発注書面に明記された委託内容と違うか、瑕疵等がある場合です。

⚠ ただし、責めに帰すべき理由があっても、次のときは返品が認められません。

・発注書面に委託内容が明確に記載されていない、または検査基準が明確でない
・発注後に恣意的に検査基準を変更した
・検査を省略した、または委託事業者が検査を行わず、
  かつ その検査を受注側に文書で委任していない

3つのうち2つが、発注書面と検査基準の話です。

「どこまでなら良品か」が書面にない状態で戻ってきたものは、そもそも返品の要件を満たしていない可能性があります。図面と発注書に何が書いてあるかを、先に見ておく価値があります。

期間の制限もある

いつまで
直ちに発見できる瑕疵受領後速やかに返品するなら問題ない
直ちに発見できない瑕疵受領後6か月以内
一般消費者向けで品質保証期間を定めている場合その期間内、かつ最長1年以内

6か月・1年は「直ちに発見できない瑕疵」の話で、すべての返品の期限ではありません。

なお、違法な返品にかかった費用(運賃や再梱包)を負担させることも、あわせて問題になります。

やり直しの費用に、何が入るか

請求できる範囲が決まっても、中身を分けて出せなければ金額になりません。

中身
段取りプログラムの修正、治具の付け直し、刃物の組み替え、初品の確認
加工時間追加工そのもの
材料作り直しなら丸ごと。手直しなら0
検査やり直したものは、たいてい全数確認になる
運賃・梱包引き取りと再納品

一番落ちやすいのは段取りです。加工時間は「1個2分」と数えられますが、段取りはロットに1回しか発生しないので、見積もりから抜けます。→ 段取り時間を原価に入れる

いくらになるか

100個の部品で、旋盤の追加工を1個2分。段取りは45分。やり直したので、追加工後に全数を1分ずつ確認する——という条件で計算します。

金額
段取り 45分3,075 円
追加工 2分 × 100個15,067 円
全数確認 1分 × 100個6,667 円
合計24,808 円(1個あたり 248 円)

ここで、加工時間だけを見て請求すると 15,067円になります。

段取りと検査を入れた額   24,808 円
加工時間だけの額         15,067 円
                       ─────────
差                        9,742 円   ← 請求額のおよそ4割

段取りと検査で、請求額の4割です。「2分×100個ぶんだけ請求します」と言った時点で、この4割は自社が持つことになります。

手直しで済むかどうかは、9倍の差

同じ部品を材料から作り直すと、100個で 223,643円 です。

手直し(追加工)      24,808 円
作り直し(材料から)  223,643 円     ← 9倍

どちらになるかを先に確定させることが、金額の交渉より先にあります。自社の条件での金額は製造コスト計算で出せます。

言えるようにしておくこと

法律は使えますが、使うための材料は自分で持っておく必要があります。

発注書面をもらう委託内容と検査基準が書いてあるか。返品の可否がここで決まります
変更は変更として残す「電話で言われた」だけだと、何が変わったのかを後から示せません
費用を出せる状態にしておく機械チャージと人件費が決まっていれば、その場で計算できます

3つ目は、機械チャージの計算人件費(マンチャージ)を一度決めておけば足ります。やり直しを頼まれてから考え始めると、間に合いません。

2026年1月に、名前が変わりました

下請法(下請代金支払遅延等防止法)取適法(中小受託取引適正化法)
親事業者委託事業者
下請事業者中小受託事業者
下請代金製造委託等代金

あわせて、従業員数による基準が新しく設けられました。製造委託等では従業員300人、役務提供委託等では100人が区分になります。資本金の基準だけで「うちは対象外」と判断していた取引が、対象に入る場合があります。

⚠ この記事でしていないこと

個別の取引が対象かどうかの判断はしていません。資本金・従業員数・取引の類型で変わるうえ、「責めに帰すべき理由」があるかどうかは事実関係で決まります。

判断に迷う場合は、公正取引委員会または中小企業庁の窓口に確認してください。相談したことを理由に不利益な扱いをすること(報復措置)も、禁止行為に含まれています。

内容は執筆時点(2026年9月)のものです。

まとめ

  • 禁止されているのは、やり直しをさせることではなく、その費用を負担しないこと
  • 費用を出せなければ、条文は使えない
  • 返品は、発注書面に委託内容と検査基準が明確でなければ認められない
  • 直ちに発見できない瑕疵の返品は受領後6か月以内(一般消費者向けで保証期間があるときは最長1年)
  • やり直しの費用は、段取りと検査で4割。加工時間だけを見ると取りこぼす
  • 手直しか作り直しかで、9倍変わる

やり直しがいくらになるかは製造コスト計算で、 その前提になる時間あたりの単価は機械チャージ計算人件費計算で出せます。

小次郎 切削工具・測定工具の販売(卸売)と、 NC旋盤・マシニングセンタでの加工。両方の実務経験があります。 運営者情報