工具のたわみ計算

突き出しと工具径から、工具がどれだけ逃げるかを出します。

工具・バーの条件

ハイスと鋼はほぼ同じ剛性です。 大きく変わるのは超硬に替えたときだけ。ボーリングバーで超硬が効くのはこのためです。

切削力

既定の100Nは「比べるための目盛り」です。 実際の切削力は材質・刃先・摩耗・切取り面積で大きく変わります。 下の比較の表は、切削力をいくつにしても変わりません。

一様断面の丸棒として計算します。刃部と首で径が違う工具や、ホルダ・機械の剛性は入りません。 絶対値は目安として見てください(→ 下の解説)。

たわみ
3.33 µm

切削力 100 N のとき / L/D = 3.0
剛性 30.0 N/µm(1µm 逃がすのに要る力)

条件を変えると

変えるものたわみ
突き出しを 1割 詰める 0.73 倍(減る)
突き出しを 2割 詰める 0.51 倍(減る)
突き出しを 1割 伸ばす 1.33 倍
径を 1割 太くする 0.68 倍(減る)
径を 2割 太くする 0.48 倍(減る)
径を 1割 細くする 1.52 倍

材質を変えると

材質たわみ
超硬 1.00 倍
ハイス 2.56 倍
鋼(合金鋼) 2.68 倍

比の表は切削力に依りません。2つを比べるときだけ、切削力は約分されて消えます。

計算式

たわみ δ = F・L³ / (3・E・I)

断面二次モーメント I = π・D⁴ / 64

  F 切削力(N)    L 突き出し量(mm)
  E 縦弾性係数     D 工具径(mm)

片持ち梁の先端に荷重がかかる形です。工具は根元で保持され、先端で削るので、 この形に当てはめます。

突き出しは3乗、径は4乗で効く

式を見ると L は3乗、D は4乗で入っています。 ここが「少し伸ばしただけなのに、急に暴れる」の正体です。

突き出しを 3D → 4D にする    たわみ (4/3)³ = 2.4倍
工具径を φ10 → φ8 にする     たわみ (10/8)⁴ = 2.4倍

「突き出しを1.3倍」と「径を2割細く」が、ほぼ同じ影響です。 覚えやすい形にすると、こうなります。

径を 2割 太くする      → たわみ 約半分
突き出しを 2割 詰める  → たわみ 約半分

同じ L/D でも、細い方がたわむ

L/D で管理している現場は多いと思いますが、 同じ L/D なら同じだけ逃げる、ではありません。

φ20 の 4D(L=80)と φ10 の 4D(L=40)
→ φ10 の方が 2倍 たわむ

L = k・D と置くと δ ∝ (kD)³ / D⁴ = k³ / D となり、 同じ L/D なら径に反比例します。 小径の工具ほど、同じ L/D でも不利になります。

超硬のバーと鋼のバー

縦弾性係数はおおよそ、超硬が 550 GPa、鋼とハイスが 205〜215 GPa です。 超硬は鋼のおよそ2.7倍なので、同じ形状ならたわみは およそ1/3になります。

深穴の中ぐりで超硬のボーリングバーが効くのはこのためです。 一方でハイスと鋼はほぼ同じなので、 材質を変えて効くのは超硬に替えたときだけ、ということになります。

⚠ 超硬は組成(WCとCoの割合)で 500〜650 GPa の幅があります。 このツールでは中ほどの550 GPaを採っています。 細かい数字を当てにする使い方はしないでください。

切削力を推定しない理由

この式で一番あやしいのは 切削力 F です。 材質・刃先形状・摩耗・切取り面積で大きく変わり、 ここを詰めずに絶対値を出すと、精度があるように見えて実は無い数字になります。

そこで、このツールは「切削力100Nあたり何µm」という形で出しています。 そして2つの条件を比べるときは、切削力が約分されて消えます。 比較の表が切削力に依らないのはそのためです。

たわむと、原価はどう動くか

たわみを避ける手はいくつかあり、どれも原価に跳ね返ります。

  • 取り代を減らしてパス数を増やす → 加工時間が伸びる
  • 送りを落とす → 同じく加工時間が伸びる
  • 短い工具や治具を用意する → 段取り時間が増える。ロットが小さいと割に合わない
  • 超硬のバーに替える → 工具費が上がる

どれを選ぶかはロット数で変わります。 1個あたりでいくら動くかは製造コスト計算で並べて比べられます。

※ 一様断面の丸棒として計算しています。実際の工具は刃部・首・シャンクで径が違い、 ホルダと機械の剛性、びびりの影響は含みません。縦弾性係数も材種で幅があります。 絶対値は目安として扱い、条件を決めるときは実際の切削で確かめてください。